『火花』(又吉直樹)
【タイトル】火花
【作者】又吉直樹
【読んだきっかけ】芥川賞受賞作品なので一般教養として読もうと思った
【私的評価】★★★★☆
【あらすじ】
売れない若手芸人・徳永と、徳永が師匠と仰ぐ先輩芸人・神谷との交流を描いた作品
徳永は地方の営業で出会った神谷に天才的なものを感じ、惹かれ、営業後に訪れた居酒屋で弟子入りを懇願する。
そんな徳永に神谷は自身の伝記を書くよう徳永に依頼し、二人の一見奇妙な師弟関係が始まった。
徳永はなかなか売れない若手芸人、神谷は大衆に迎合することを嫌う破天荒な芸人だ。
徳永は早々にテレビ出演を勝ち取って売れっ子になる後輩芸人の出現に焦りを感じたり、お笑いライブで徐々に知名度を高めてテレビに出演したり、徐々にまた売れなくなって相方が子供をもうけたのを機に芸人を引退し、それに合わせて自身も引退するという、非常にリアルな芸人だ。引退前の最後のライブは中々感動的なライブとなった。
それに対して、神谷は破天荒な芸風が邪魔してなかなか売れない、大阪で芽が出ないので東京に移り住み、真樹という女性の家に転がり込んだり、ヒモのような暮らしを続けたり、ついには借金で首が回らなくなり、行方不明になる…という非常にステレオタイプな昭和の破天荒芸人のように見えた。
ついに神谷は自己破産し、事務所をクビになり、徳永を呼び出し「これでテレビ出れるかと思った」と豊胸手術を受けたことを明かし、徳永はそれを厳しく叱責した。
最後は徳永が神谷の誕生日に合わせて熱海への温泉旅行を企画し、神谷が温泉につかり、花火を見ながらネタを考えるところで終わる。
【感想】
とても読みやすかったです。
「芥川賞受賞作品」と聞くと難しく身構えてしまったのですが、決してあっさりした文章という意味ではなく、作者の書く文章がとてもきれいだったのですらすらと読むことが出来ました。
作者の又吉直樹さんも芸人でいらっしゃるので、お笑いの世界の描き方がとてもリアルでした。
主人公徳永はサッカーで高校選抜に選ばれていたという設定がありましたが、又吉さんも高校時代にサッカー部に所属し、インターハイに出場していたり、
徳永のお笑いコンビ名が「スパークス(火花)」であるのに対し、又吉さんが最初に組んだお笑いコンビの名前が「線香花火」だったり、
主人公徳永は少なからず又吉さん自身が重ねられてできたキャラクターなのかもしれません。
そうすると神谷にもモデルがいるんじゃないかという気になりましたが、あくまで小説なので余計な詮索はしないようにしときました。
ストーリーで良かったのは後半部分のスパークスの解散ライブからラストにかけてです。
スパークスは「真逆のことを言う」という漫才をするのですが、
「僕達、スパークスは今日が漫才をする最後ではありません。これからも、毎日皆さんとお会い出来ると思うと嬉しいです。僕は、この十年を糧に生きません。だから、どうか皆様も適当に死ね!」と中々感動的な漫才を行い、ジーンと来ました。
しかし、「まぁ才能やチャンスに恵まれなかった人も頑張って続けたけど結局生き残れなくて引退していくのってちょっと有りがちかなぁ~」なんてことも思いました。
だけどその後、借金が膨らんで行方を眩ませていた神谷が再登場するのです。
神谷の借金が膨らんでる様子は物語の中盤ぐらいから時限爆弾のようにいつか爆発するだろうな、とちょくちょく差し込まれていたので、神谷の再登場でついに借金の爆弾が爆発するのか!?と思いきや、神谷自身は豊胸手術をして登場するというのが非常にフリのきいたボケのようで面白かったです。
その他にも色々と印象に残る問題提起や文章が多かったです。
例えば、「漫才とはどうあるべきか?」という話も出てきました。
2020年末のM-1で優勝したマヂカルラブリーのネタを「これは漫才じゃない!」と批判する声が一部上がっていたのでとてもタイムリーで面白い箇所だったと思います。
「漫才師とはこうあるべきやと語る者は永遠に漫才師にはなられへん。」という意見はとても興味深いものでした。
他にも「生きている限りバッドエンドはない」という何とも生きづらい現代を生きる者にとってはこれ以上ないというほどの勇気づけられる文章もありました。
またふとした時に読み直したいと思います。