映画『エクストリーム・ジョブ』(ネタバレあり)
※この記事はネタバレを含みます。
【タイトル】エクストリーム・ジョブ
【観た媒体】レンタルビデオ
【観たきっかけ】前評判が高くずっと気になっていたので
【私的評価】★★★★★
【あらすじ】
韓国の警察官コは麻薬捜査班の班長。仕事には人一倍真面目に取り組んでいるが、なかなか成果を挙げられず、出世レースは同期や後輩に追い抜かされてばかり、麻薬捜査班の解体も検討されている。
コはこの日も麻薬捜査班のチャン、マ、ヨンホ、ジェホンと共に、麻薬密売グループの摘発に赴いたが、なんとか密売グループの逮捕にこぎつけるものの、車十数台が絡む交通事故を引き起こしてしまい、その賠償金の高さから、上司の大目玉を食らってしまった。
説教を受けた帰り道、コ班一行はチェ課長とその捜査チームと鉢合わせする。
チェ課長は元々コの後輩だったが、先に出世をして課長になった警察署内のエースだ。
いつまでも班長止まりのコを終始見下しながら、「今から昼飯なんだが、一緒にどうだ?」と誘い、コ班とチェ班は一緒に食事をすることになった。
その席でチェは「手柄を挙げたいだろう?」と国際的に暗躍する一大麻薬密売組織の大物ボス、イ・ムベの潜入情報をコにタレこむ。
出世が見込めないだけでなく、麻薬捜査班の解体も近づいてきたことに焦りを感じたコは、なりふり構ってられずチェに情報をもらい、張り込み捜査をすることになった。
よくイ・ムベ一家から注文が入るという、アジトの向かいのチキン屋で張り込みを開始したコ班だが、一向にイ・ムベの足取りを掴めない。
焦るコにさらなる不運が続く。張り込みに使用してたチキン屋が閉店することになったのだ。
活動拠点を失いそうになったコは苦渋の決断の末、なんと自分の退職金を前借してチキン屋を買い取ることにした。
チキン屋を自由に使えるようになり、捜査が捗ると思ったコだったが、イ・ムベ一家の注文を待ちながらチキン屋の営業を続けると、一般の客まで来店するようになった。
いつまでも「今は準備中なので…」と客を追い返してばかりいては怪しまれてしまうので形だけでもチキンを提供することにした。
しかし、コ班の全員料理経験は乏しい。一度全員でチキンを揚げてみると、カルビが名物の水原(スウォン)出身であるマ刑事の揚げたチキンが一番それらしかったので調理はマ刑事が担当することになった。
その他にコが店長、チャンが接客配膳、ジェホンが仕込み、ヨンホがアジトの張り込みを担当することになった。
すると、早速一般客が来店した。マ刑事がチキンを揚げて客に出すまでは良かったが、客に「このチキンにタレはついてないの?」と突っ込まれてしまう。
しかし、マ刑事もチキンのタレの作り方は知らない。
仕方ないので、適当にチキンを故郷の水原カルビのタレに浸して客に出したところ、これを食べた客は「美味い!美味い!」と大興奮。
この評判を聞きつけた客が連日チキン屋に押しかけ、店は意図せず大繁盛してしまう。
この店を取材しようとテレビ局が訪れるが、犯人グループに顔が割れたり、こんな潜入捜査をしていることが警察署にばれたら大変なことになるので取材を断った。
しかし、テレビ局のプロデューサーは侮辱されたと思い、報復を企てる。
のちにこれが大きな転機を呼ぶことになる。
捜査をしようにも大繁盛の店の切り盛りが忙しくて手が回らない。せっかくアジトに動きがあり、尾行をしていたヨンホが応援を頼んだにも関わらず、店のを仕切るのに精いっぱいで無視してしまう。
チキン屋に戻ったヨンホが「なんで誰も応答してくれなかったんだ!」と怒りをぶつけると、「お前こそ店が忙しい時に何やってたんだ!」と逆切れされてしまう。
これでは警察とチキン屋、どっちが本業かわからない。
本業の捜査の時間を作るために値上げをして客の数を減らそうとするが「高級チキンでSNS映え!」と余計に客が増えてしまう。
仕方なく1日50羽限定ということにして何とか客を抑えた。
しかし、毎日毎日張り込みばかりしていることを怪しんだ署長からコ班全員呼び出しを食らい、説教を受けることになった。
その最中にようやくアジトのビルから注文が入る。
全員すぐさまチキン店に戻りチキンを揚げ、装備を万全にしてチキンを配達に向かうが、応対に出たのはこのビルの大家だった。
コが「ここにいた人は?」と聞くと「今日引っ越した」と大家が答えた。
大家は知人と引越し後のテナントの片づけをしていて、差し入れにチキンを注文したのだ。
「なぜ今日に限って署長は呼び出したんだ・・・」
これまでチキン屋に扮して続けてきた捜査がすべてパーになってしまった。
麻薬捜査班の解体はもう決まったも同然、しかしチキン屋で成功しているのだからこれからはチキン屋を続ければいいと思った矢先、いつか取材を断ったテレビ局がチキン屋の告発番組を放送してしまった。
「水原カルビ味チ※※は、法外な値段に値上げし、時には他店で買ったチキンをそのまま客に提供している!」
どれも捜査の時間を作るために仕方なくしたことだが、それが悪いように捉えられてしまった。
さらに、この副業が署長にもバレ、ついにコ班長に停職処分が降りてしまった。
警察官として停職処分は退職勧告と同義、さらに退職金をつぎ込んだチキン屋の評判もガタ落ち、コは窮地に立たされた。
他にすることもないコ班の一行はチキン店に集まって今後について話し合っていた。
そこにチョンと名乗る一人の経営コンサルタントがやってきた。
「名店は難癖をつけられても簡単につぶれないものだ。我々の好物は傷物になった優良品です。皆さんのレシピとノウハウをお借りして全国チェーンを展開したい。」
とチキン屋のフランチャイズ契約を持ち掛けてきた。
全員最初は詐欺を疑ったが、「あなた方をだましても大したお金にならない。」と言われ、アタッシュケースに入った札束の山を見せられるとすっかり態度を軟化させ、契約に応じてしまう。
しかし、このチョンの正体はイ・ムベの部下だったのだ。
潰れかけのチキン店を利用して怪しまれずに麻薬を運ぶことが目的だったのだ。
そして、場面はイ・ムベに切り替わる。
イ・ムベは敵対する大物マフィアのボス、テッド・チャンが経営するピザ店に赴き、手を組もうと打診してきた。
イ・ムベが中国で入手した麻薬を、テッド・チャンが韓国国内で売りさばき、韓国中で誰も容易に麻薬が手に入る世の中にしようという提案だった。
一方、再開したチキン屋のチェーン店は、イ・ムベらが用意したならず者たちが店番をしているので上手く店が回るはずがない。
料理はまだかと催促した客の前で店員同士が喧嘩をしたり、団体客を脅して追い返してしまったり無茶苦茶だ。
それを知ったコはチョンにクレームを入れ、さらに各自各支店の様子を探ることにした。
すると1日に30回も配達が発生する店舗があった。しかも妙なことに配達を頼んだ客はチキンを受け取るとすぐに捨ててしまう。妙に思ったコとヨンホはチキンの注文の配達ルートを周ることにした。
すると二人は配達ルートがいつも一定のルートを辿っていることに気づいた。
客の一人を尋ねると目は血走っていて、腕には注射痕があった。
そこでコはチョンらがチキンの配達に見せかけて薬物を流通させていたことに気づいた。
一方、マ刑事は見回りに行った支店がまだ営業時間中なのにも関わらず店を閉めて麻雀に興じているのを見て一度は叱責したものの、ギャンブル好きの性格が災いして自分も混ぜてもらうことにした。
マを警戒している店員らはマに聞かれないよう中国語で会話をし始めた。その中でポロッと麻薬取引に関する情報を喋ってしまった。
しかしマ刑事は実は中国系の出身で、中国語が理解できる。そのことが店員らにバレて、ぼこぼこにリンチされてしまう。
マはイ・ムベのもとに連行され、警察手帳を所持していたことからコ班のメンバーが潜入捜査中の警察官だとイ・ムベ一家にバレてしまう。
イ・ムベはマ刑事を監禁し、コ班をテッド・チャンとの取引の現場におびき寄せて、始末しようを企てる。
マ刑事と連絡がつかないことを心配していたコ班だったが、イ・ムベ一家から「マ刑事を監禁しているから助けに来い。場所は後で知らせる」と動画が届く。
すぐ助けに行こうにも、マ刑事の居場所がわからない。どうするべきか悩んでいると、突然コ班の紅一点チャン刑事がカップル用の位置追跡アプリを起動した。
実はマ刑事とチャン刑事は内緒で交際していたのだ。マ刑事が拘束されてる場所が分かったコ班はすぐさま現場に急行する。
一方、拘束されていたマ刑事は実は元柔道の韓国代表選手で、なんとか自力で拘束を解くと「頭が悪いのによく警察官になれたな、と言われるが俺は特別採用だ!」そう言ってイ・ムベの部下たちを一網打尽にやっつけてしまった。
部下の一部が車でイ・ムベとテッド・チャンの取引現場に向かうのを見て、それを尾行することにした。
そして、取引の現場に到着したマ刑事はイ・ムベとテッド・チャンが麻薬の売買をしている現場を目撃する。マ刑事はとっさの機転を利かせ、スマホアプリを使ってパトカーのサイレン音を鳴らす。
警察が来たと勘違いしたイ・ムベ一家とテッド・チャン一家は乱闘を始める。
そこにコ班全員が合流した。大勢のマフィアを相手に総勢5人では到底太刀打ちできないと思いきや、元柔道韓国代表のマ刑事の他に、ヨンホ刑事は人を殺したこともあるとも噂される、海軍の特殊部隊出身、紅一点のチャン刑事はゾウの首も一蹴りで折る元ムエタイチャンピオン、
一番若手のジェフン刑事は学生時代野球部に所属していた。濁らせた物言いだが、韓国では運動部に入ると忍耐強くなる。そして、ジェフン刑事は相手の攻撃を受けてもまるっきり痛みを感じていなかった。
そしてコ班長は20年間凶悪犯を相手にしてきて、12回も刺されているのにもかかわらず平気で生きている、ゾンビと呼ばれる男だった。
5人の活躍によってマフィア衆を追い詰めていくが、乱闘騒ぎの中、イ・ムベはこっそり仲間を見捨て自分一人だけボートに乗って中国へ脱出しようと試みる。
コ班長はそれを逃さず自分もボートに飛び乗り、イ・ムベと一騎打ちに出る。
丸腰のコ班長は苦戦するが最後はパンチの相打ちになり、不死身の男コが勝った。
そこに後輩のチェ課長らの応援が駆け付け、事件は一件落着となる。
解体寸前だった麻薬捜査班だったが、5人はイ・ムベとテッド・チャンの大物マフィア2人とそのグループを逮捕したことを表彰され、チーム全員が特進する。
【感想】
とにかくとても面白かったです。勧善懲悪のスカッとする内容なのがまたいいですね。
そんな大笑いするほどのジョークの切れ味ではなく、例えば映画館で観てもクスッとくるぐらいの笑いだと思うのですが、どうも私にとってはツボだったようで、ここしばらく観た映画では一番腹を抱えて大笑いしました。
韓国では「高卒はチキン屋になるか、餓死するか、過労死する」というブラックジョークのような言葉があるそうです。チキン屋は手持ちの金が少なくても始められるビジネスだからだそうです。
(そういえば最近の日本でも唐揚げ専門店って増えましたね・・・)
コ班の警察官たちも普段から厳しい労働環境にいますが、それもチキン屋に通じるところがあるかもしれません。
最後の決闘でイ・ムベに「なぜ警察を停職になってチキン屋になったお前が俺の邪魔をする?」と聞かれたコ班長が「商売を邪魔されたからだ、俺たち零細業者はみんな商売に命を懸けている」というセリフを吐くシーンは日本の労働者階級の私にもなぜかジーンとくるものがありました。
音楽の軽快さもよし、美味しそうな料理のシーンもよし、韓国の生活実態が知れる風刺っぽさもよし、とてもおすすめの一本です。
映画『ゲット・アウト』(ネタバレあり)
※この記事はネタバレを含みます。
【タイトル】ゲット・アウト
【観た媒体】プライムビデオ
【観たきっかけ】前評判が高くずっと気になっていたので
【私的評価】★★★★★
【あらすじ】
映画は一人の黒人男性が夜道を歩いているところから始まる。
すると、そこに一台の白い車が通りがかる。
男性が歩く方向を変える度に車もそれに合わせて男性の後を追いかけてくる。
気味が悪くなった男性はその場を離れようとするが、車から降りてきた鉄仮面の男に首を絞められ、気絶してしまう。
鉄仮面の男は気絶した黒人男性を車のトランクに乗せるとそのままどこかへ走り去った。
場面は変わって、主人公クリス・ワシントンの家。クリスは若手写真家だ。
彼は恋人のローズ・アーミテージの実家に、挨拶を兼ねて旅行に行くための荷造りをしていた。
クリスは黒人、ローズは白人のカップル。クリスは自分がローズの家族に受け入れられるか心配している。
ローズに自分が黒人であることを両親に伝えたか確認するとローズは
「伝えていない。でも私の両親は差別主義者じゃない。オバマに三期目があったら投票している」と答えた。
留守中愛犬の世話を頼んだ運輸保安庁で働く親友の黒人ロッド・ウィリアムスから電話がかかってきてよろしく頼むと伝えると
「白人の家なんか行かない方がいいぞ」と冗談を返された。
そして不安を抱えながらクリスとローズは車に乗り込みローズの実家に向かった。
しかしその道中、思いがけず飛び出してきたシカを轢き殺してしまう。
そのシカを見てクリスは何か考え込む。
警察の聴取に応じている最中、警官は運転をしていたローズだけでなく、クリスにも身分証の提示を求めてきた。
ローズは「運転をしていたのは私で彼は関係ない」と警官に反論するが、クリスは「いいよ、慣れてる」と身分証を出そうとした。
それでも彼女は必要ないと警官に食い下がった。
ローズのあまりの剣幕に警官もクリスの身分証は諦め、聴取は終わった。
ローズの実家に着くと、まず庭の管理人である黒人のウォルターが手を振っているのが目に入った。
出発前の不安に反してクリスは熱烈に歓迎され、ローズの両親にハグで出迎えられた。
クリスとローズはここに来る途中、シカと衝突事故を起こしたことを話すと、
ディーンが「それは大変だったね、でも正直に言うと私はシカにはうんざりしている。
轢いてくれたのはむしろ有難いよ」と答えた。
キッチンには給仕係の黒人女性、ジョージナがいた。
ディーンは「母はこのキッチンが好きだった。このキッチンにも彼女の一部を残してある。」としみじみ語った。
ディーンとクリスは二人で庭を散歩しながら歓談した。
ディーンはクリスが疑心暗鬼になっているのを察してか「典型的だろう?白人の家庭に黒人の使用人、元々は両親の世話をしてもらっていたんだが辞めさせたくなくてね。
両親が亡くなった後も手伝いをしてもらっている。自分は断じて差別主義者ではない。
オバマは素晴らしい大統領だ。もし彼に三期目があったら投票してたよ。」
とローズの言った通りのことをしゃべった。
さらに死んだローズの祖父、ローマン・アーミテージは陸上選手としてオリンピックに出場し、伝説的な黒人選手、ジェシー・オーエンスに競り負けたことも教えてくれた。
そうしているうちに準備が整い、4人でランチをすることになった。
クリスは身の上話を聞かれた。どこの家でも娘の彼氏が来た時はそんな話題になるだろう。
クリスは自分の母親について聞かれ、事故で亡くしたことを告白した。
すると精神科医の性分なのか、ミッシーがその事故について銀のスプーンをカチャカチャ鳴らしながら詳しく聞き始めた。
クリスは母の死がトラウマになっている為、話すのを躊躇していると
給仕係のジョージナがお茶をこぼした。動揺するジョージナにミッシーが
またしてもスプーンをカチャカチャ鳴らしながらいいから下がるように言うとジョージナは謝罪しながら下がっていった。
ディーンが「君はタバコを吸うのか?」とクリスに聞きだした。クリスが「ええ」と言うと「それならミッシーの催眠療法を受けるといい。私もそれで辞められた」と勧めた。
クリスが「遠慮しときます」と断るとミッシーは「興味があったらいつでも言ってね」と彼になげかけた。
そうしていると、ローズの弟、ジェレミー・アーミテージがやってきた。
彼は医学生をしている。
その日の夜は、ジェレミーを加えて夕食を囲んだ。
ローズの初恋の思い出話などに花が咲くが、酔っぱらったジェレミーが
クリスの身体能力について興味を持ち、少々無礼な態度で質問を繰り返した。
「どんなスポーツをやってた?」「格闘技はどうだ?」「その遺伝子構造なら絶対に強い、やってみろ!」そう言ってクリスに飛びかかった。
クリスは「酔っ払いの相手はしない!」と叫ぶと、ジェレミーはアーミテージ夫妻に制され大人しくなった。夫妻はクリスに謝った。
深夜、目が覚めたクリスはタバコを吸いに外に出た。
すると、向こうから走ってくる人影が見えた。庭の管理人のウォルターだ。
こちらを目がけて突進してくる。
いよいよ、ぶつかりそうになった瞬間、ウォルターが急転換して衝突は避けられた。
不気味に思ったクリスだが、ふと家の方に目をやるとジョージナがじっと外を見つめていた。
ところがそれは、夜の小窓を鏡代わりにし、そこに映った自分を見てうっとりしているようだった。
奇妙な出来事に疲れたクリスが家の中に入ると、ミッシーがソファーに腰かけていた。
「お願いだから、そこに座って」と正面に向き合うように腰掛けるように促された。
断るのも悪い気がしたクリスはしぶしぶミッシーに付き合うことにした。
ミッシーは昼間と同じ、銀スプーンとティーカップをカチャカチャやりながらクリスの母の事故死について、再び詳しく問いただした。
クリスは母が事故に遭っている間、警察に連絡すると母の死が現実になってしまいそうで何も出来なかったことなど、涙を流しながら話した。
すると自分が動けないことに気づいた。それをミッシーに告げると、
ミッシーは「次は床に沈むのよ!」と言ってスプーンをカチャーンと鳴らした。
次の瞬間、クリスは急に暗黒の奈落の底に落とされた。
どんどん深みにはまっていく、地に足がつかない感覚が続いていく。
どんどん視界が狭くなってミッシーがクリスの瞼を閉じると漆黒の闇に包まれた。
そこで目が覚めた。クリスはベッドの上にいた。辺りはまだ暗い。
あまりにも不気味なことが続き、悪い夢でも見たのかと思ったが、クリスは自分が煙草の匂いに嫌悪感を抱くようになっていることに気づいた。
朝、クリスは散歩に出かけた。ウォルターが薪を割っているのが目に入り、
「よぉ、こき使われてるな?そういえばまだちゃんと話してなかったな!」と声をかけた。
するとウォルターは「嫌な仕事はないよ、君には謝らなければならないね、昨日の夜はびっくりさせて悪かった。ちょっとした運動だったんだ」と話した。
おそらく同年代にもかかわらず、やけに上から目線の物言いにクリスはまたしても違和感を覚えた。
この日は親戚を集めてのパーティーが開かれた。
ローズによれば「典型的な白人」が多く、苦手だと聞いてクリスも不安になった。
集まった親戚はただの使用人であるはずのウォルターとしっかりハグをするほど人当たりが良いように見えた。
しかし、クリスは挨拶を交わすと「君はゴルフをやるか?タイガー・ウッズは素晴らしい選手だ。ちょっとスイングしてみろ」や
「流行は一周する。今は黒がトレンドだよ」など黒人を無理に持ち上げているような物言いにクリスは戸惑う。
そして盲目の画商、ジム・ハドソンに出会う。彼は写真家であるクリスの作品も知っているようだった。
白人に囲まれて居心地が悪い中、一人の黒人男性ローガンを見つけ声をかける。
「良かった、黒人がいて心強いよ」そう言ってグータッチをしようとするとローガンは手をパーにして握手をした。
ローガンはその若さからは不釣り合いの、2回りは年の離れてそうな初老の白人女性パートナーとパーティーに参加していた。またしても違和感を覚える。
居心地が悪くなったクリスは部屋に戻るが自分のスマホの充電ケーブルが抜かれていることに気づく。
後ろを振り向くと、そこにはジョージナが立っていた。
「ごめんなさい、それは私が不注意でしてしまったの」と微笑みながら謝罪した。
クリスは彼女の不気味な雰囲気に戸惑いつつも「いいよ」と気遣った。
するとジョージナは「ここのアーミテージ一家はとても良くしてくださるの」と笑顔で言った。
クリスが「大丈夫か?ちゃんとやっていけてるか?」と聞くとジョージナは「大丈夫」といった後、突然涙を流し始めた。
「ノーノーノー・・・」と繰り返しながら笑顔で涙を流し続けた。とても不気味である。
スマホで親友のロッドに電話をかける。
奇妙な黒人使用人、奇妙な白人パーティー、奇妙な白人と黒人のカップル、スマホの充電ケーブルが抜かれ、まるで外と連絡を取らせないようにされていること・・・
すべてを話すとロッドは「わかった!きっと性奴隷だ!黒人を性奴隷にして売り飛ばそうとしてるんだ!お前も危ないぞ!」と突拍子もないことを言い出した。
クリスはさすがに馬鹿馬鹿しいと思ったのか、電話を切ってパーティーに戻った。
パーティーではローガンがみんなを前にして演説を行っていた。
クリスはその様子をスマホで撮ろうとシャッターを切るとパシャッとフラッシュが光った。
すると、ローガンは一瞬立ち止まり、クリスを見つめる。すると鼻血が出てきた。
クリスは「悪い、フラッシュを切り忘れたみたいだ。すまない」
謝罪するクリスにローガンは錯乱して「出ていけ・・・出ていけ!出て行け!」と掴みかかってきた。
ジェレミーに羽交い絞めにされ、ローガンは家の奥に連れていかれた。
しばらくして正気を取り戻したローガンはクリスに掴みかかってしまったことを謝罪し、クリスもそれを受け入れたが、気分はすぐれない。
アーミテージ家に「少し散歩したい」と許可を取り、ローズもそれに付き添うことにした。
ディーンは「よし、それじゃあ気分を変えるためにビンゴはやるのはどうだ?」と提案し、
クリスとローズが散歩している最中、その他のメンバーでビンゴをすることにした。
クリスはローズに身の回りに起きた異変についてすべて話し、もうこの家を離れたいと正直に打ち明けた。
ローズもそれを了承し、家族にはなにか適当に理由を言って今夜家を出発することにした。
その頃、庭ではビンゴカードを使って何か競りのようなものが行われていた。
ディーンが手指で金額のようなジェスチャーを示し、パーティーの来客がビンゴカードを提示して入札をしている。
その傍らにはクリスの大判写真が飾られていた。
競りは盲目の画商、ジムが落札したようだ。
しばらくしてクリスにロッドから電話が入った。
実は先ほど撮ったローガンの写真をこっそりロッドに送っていたのだ。
ロッドはローガンに見覚えがあり、調べたが地元の知人のアンドレにそっくりだという。
クリスは「アンドレ?その男はローガンと言ったぞ」とロッドに話すが
「確かにアンドレだ。今は行方不明らしい」とアンドレのSNSページを示しながら言い、クリスも混乱した。。
続けてロッドは「やっぱり黒人を性奴隷にしているんじゃないか?とにかくもう早く帰ってきた方がいい」とクリスに告げるとクリスは「今夜帰る」と言って電話を切った。
クリスが帰る為の荷造りをしていると、ローズの部屋の一角に物置のようなスペースを見つけた。物置は扉が半開きになっている。
気になったクリスが近づくとそこには赤い箱があり、恐る恐る開けてみるとローズと黒人の2ショット写真が何枚もしまってあった。
その写真には使用人のウォルター、ジョージナがそれぞれローズと2ショットで映っている写真も含まれていた。
その時、後ろで「支度できた?」というローズの声がした。
クリスは驚きつつ頷くとローズと一緒に玄関に向かった。
クリスはローズに車の鍵を渡すように言うが、ローズは「変ね、どこにしまったかしら・・・」とカバンの中を探すが、なかなか見つけられない。
すると、玄関ではジェレミーがラクロスのクロスを持って出口を塞ぐように立っていた。
横からディーンとミッシーが「どうしたの?」と聞いてきた。
ローズが「クリスのペットが急病で帰ることにしたの」と言うと、ミッシーが「そう、それは残念ねえ・・・」と話す。
クリスは「お世話になりました。ローズ、車の鍵を」とローズに再度鍵を渡すように言うがローズはまだ見つけられない。
「ローズ、鍵だ!」クリスが少しいら立ったように言うと、ローズはとっくに鍵は見つけたがわざと渡さなかったかのように無表情で車の鍵をクリスに見せつけ、
「鍵は渡せない」と答えた。
そこでクリスはローズも自分を家から出さないように嵌めようとしたのだと知る。
ジェレミーがクロスを振りかざしてクリスに襲い掛かってきた。
必死に抵抗するクリスだったが、次の瞬間ミッシーが銀のスプーンでティーカップをカチャーンと鳴らすと、また催眠がかかり、クリスは意識を失ってしまった。
もうろうとする意識の中、クリスはどこかに運ばれていった。
場面が変わって、ロッドの家になる。
ロッドは何度もクリスの携帯電話にかけるが、その都度留守電になるばかりだ。
これは何か事件に巻き込まれたと考えたロッドは警察に相談しに行く。
警察では黒人の女性警察官が相談にあたってくれた。
ロッドは自分の親友が彼女の実家に行ったきり帰ってこないこと、もしかしたら黒人を性奴隷にして売りさばいているのかもしれないと話すが、女性警官と同僚はその話を聞いて爆笑する。
「どうせ白人女に騙されてそこら辺をフラフラしてるだけでしょう」と言って真面目に取り合ってくれなかった。
クリスが目を覚ますと地下室にいた。ソファーに手足を縛られて身動きが出来ない。
目の前にはシカのはく製が飾られていて、また古めかしいテレビが置かれていた。
するとテレビから映像が流れてきた。
アーミテージ家の祖父、ローマン・アーミテージが自身の確立した「凝固法」と呼ばれる脳移植について説明する映像だった。
凝固法に関する説明が終わると銀のスプーンとティーカップの映像に切り替わり、例のカチャーンという音を聞いてクリスは再び眠ってしまう。
場面はロッドの家に切り替わる。
警察も捜査に協力してくれないのでロッドはどうやってクリスを助け出そうか途方に暮れていた。
相変わらずクリスのスマホにつながらない。そこで、今度はローズのスマホに電話をかけることにした。
すると電話がつながった。そして彼女にクリスが帰らないことを伝える。
ローズは「もうクリスは帰った」と嘘をつくが、ロッドは運輸保安庁に務める仕事柄、ローズの嘘を見抜いた。
一旦保留にしてスマホの録音を開始し、何か手掛かりを探ろうとするが、ローズに「そう、あなたは私と寝たいのね?」と上手くはぐらかされ、作戦は失敗に終わった。
再び地下室、クリスは目を覚ました。テレビに新たな映像が映し出された。
競りに勝った画商のジムがスキンヘッド姿で映っている。
ジムは「気分はどうだ?インカムでつながってるので答えろ」とクリスに話しかける。
そこでジムはこれから手術をして自分の脳をクリスの体に移植し、体を乗っ取ると告げる。
つまり、アーミテージ家は脳移植を希望する白人の為に黒人の拉致や誘拐を繰り返し、手術をして黒人の肉体を提供することを生業とする一家だったのだ。
ローズがクリスに接近して恋愛関係になったのも実家に誘い込むのが目的だった。
クリスは「なぜ黒人なんだ?」と尋ねた。
ジムは「憧れだ。ある者はより逞しくありたいと思う。だけど、私は違う。目だよ。その目で世界を見てみたい。」と答えた。
写真家として美しいものを捉えるクリスの目が欲しいと思ったのだろう。
クリスが「イカれてる」と言うと、テレビの中継は終わった。
クリスはイライラが募り、手でソファを掻きむしる。
すると、ソファの表皮が剥がれ、中から綿が出てくるのを見てクリスはあることを思いつく。
しばらくするとまた銀のスプーンとティーカップの映像がテレビから流れ、クリスは再び眠らされる。
地下の手術室では着々と手術の準備が進められ、執刀医のディーンがジムの頭が切開し、脳などを取り出す作業を行っていた。
手術はいよいよクリスにメスを入れる段階になった。
ジェレミーはクリスを手術室に運び込むため、車いすを伴ってクリスが眠る部屋に向かった。
部屋に着いたジェレミーがクリスが眠っていることを確認するとソファに付けられた手錠を外し、クリスを運ぶための準備をしている。
すると、ジェレミーの背後に眠っていたはずのクリスが立っている。クリスは傍らにあった鈍器でジェレミーを殴りつけるとジェレミーは血を流しながら気絶して倒れた。
クリスは耳から綿を取り出した。
ソファから出た綿を耳栓代わりにして催眠術を回避していたのだ。
ディーンは手術室で準備を進めていたが、ジェレミーが中々戻ってこないので様子が気になって廊下に出た。
次の瞬間、クリスがシカのはく製でディーンの喉元を一突きした。流血したディーンはよろけながらその場に倒れ込んだ。
クリスが地下室から1階に上がると、ミッシーと鉢合わせた。すぐ横のテーブルには例の銀のスプーンとティーカップが置かれている。
再び催眠術をかけようとするミッシーとクリスの間でティーカップの奪い合いが起こる。
ミッシーはそばに置いてあったナイフでクリスに切りかかった。クリスはナイフを手で受け止め、クリスの手を貫通した。
それでもクリスはひるまず立ち向かい逆にナイフでミッシーを突き刺した。
クリスが外に出ようとすると、後ろからジェレミーが飛びかかり首を絞めてきた。
もう少しで落とされるところだったが、間一髪ドアの金具をジェレミーの脚に突き刺し、蹴りを入れてジェレミーを気絶させ、車の鍵を奪った。
次にローズの部屋が映し出される。
ローズは今までの雰囲気とは打って変わり、髪をオールバックにし、白いシャツを着ている。カラフルなシリアルを手づかみで食べ、黒いストローで牛乳を飲んでいる。
そしてパソコンで黒人アスリートの情報を検索していた。おそらく次の獲物を探っているのだろう。
彼女はイヤホンで音楽を聴いていて家の中の乱闘騒ぎに気づかない。
部屋には今まで仕留めてきた黒人の写真が飾られていた。
クリスはジェレミーの車に乗り込んだ。
その助手席には映画冒頭に黒人を拉致した男が身に付けていた鉄仮面が置かれていた。
クリスは車を発進させ、警察に通報する。
警察に事情を説明しようとした瞬間にジョージナが車の前に飛び出し、彼女を轢いてしまう。
その騒音でローズが外の異変に気づいた。
クリスは一刻も早く逃げなければならないのにも関わらず、母の事故死のトラウマからジョージナを放っておくことができない。
結局クリスは車を降りてジョージナを抱きかかえると、車に乗せて再び走り出した。
そこに猟銃を持ったローズが家から出てきた。
一度は車に向けて発砲を試みるも、「おばあちゃん・・・」とつぶやき銃口を下げる。
運転を続けるクリスだったが、目を覚ましたジョージナに「よくも家を壊したわね!」と運転の邪魔をされ、車は木に激突してしまった。
クリスは意識を取り戻したが、助手席のジョージナは息絶えたようだ。
ウイッグでよく見えていなかったが、彼女の頭には手術痕があった。
サイドミラーを確認しようとすると、ローズが猟銃で発砲してきた。
クリスは車から降りて何とか逃げようとするが、足を負傷していて思うように歩けない。
後ろからローズが発砲しながら迫ってくる。
そしてまたその後ろから黒人使用人のウォルターが全速力で迫ってきた。
ローズが「おじいちゃん・・・」とつぶやくとウォルターはクリスに飛びかかり、馬乗りになった。ウォルターの頭にもまた手術痕があった。
とっさにクリスがスマホを取り出し、ウォルターをフラッシュ撮影するとウォルターは一瞬大人しくなり、クリスから離れた。
後ろで猟銃を抱えていたローズに「貸せ、私がやる」と言うと彼女から猟銃を受け取った。
すると、ウォルターはクリスではなく、ローズの腹部を撃ち、最後は自分で頭部を撃ち抜いて自害した。
腹部を撃たれて瀕死のローズが猟銃に手を伸ばそうとしていると、クリスは猟銃を遠ざけ、馬乗りになった。
そして彼女の首を絞めようとすると、ローズは「助けて・・・愛しているの・・・」と命乞いをし出した。クリスは躊躇する。
その時、パトカーが到着した。ローズはパトカーに向かって「助けて!」と叫んだ。
パッと見れば、この状況は黒人男性が白人女性に馬乗りになって首を絞めようとしている状況だ。観念したクリスは両手を挙げてパトカーの様子をうかがった。
すると、そこから出てきたのは親友のロッドだった。パトカーには「空港警察」と書かれていた。
ロッドはこの状況にパニックになりながらも「クリス!」と叫ぶと、クリスはそのままパトカーに乗り込んだ。
ロッドはクリスに「だから行くなと言ったろ?」と笑えない冗談を言った。
クリスがロッドに「よくここがわかったな」と話しかけると「俺の仕事は困難に立ち向かうことだ。この状況からすると、任務完了のようだな」と返した。
去り行くパトカーを見つめながら、ローズは息絶えた。
【感想】
強いメッセージ性を持ち、沢山の伏線が上手にちりばめられた素晴らしい映画でした。
ホラー系は苦手で、観終わった後もまだちょっと引きずっているのですが、それでも観て良かったと思います。
この映画の大きなテーマは人種差別、特に黒人差別です。
監督のジョーダン・ピールはコメディアン出身の映画監督で、このゲット・アウトが初めての監督作品だったそうです。初めてでこんな映画を撮るなんてすごいですね。
秀逸だと思ったのはクリスとローズがアーミテージ家に向かう途中でシカを轢いてしまい、警察の聴取を受けるシーンです。
運転していないクリスまで身分証の提示を求められ、ローズはその必要はないと警察官に詰め寄りました。
一見、黒人の彼氏を思いやって差別に抗議する心優しい彼女に見えます。
しかし実際は違います。
ローズはこれからクリスを拉致監禁して肉体を商品として売りさばくつもりなのです。
これから行方不明となる予定のクリスと自分が一緒に居たということが警察の記録に残ってしまうのはまずい、なのでなんとしてもクリスの身分証を警察には見せたくなかっただけなのです。
それが、観客に「これは差別だ」というフィルターを通して見させることで上手くミスリードを誘いました。
沢山のメタファーも含まれていました。
その一つがシカです。
前述の通り、クリスとローズはシカを轢き殺してしまいましたが、そのシカの品種はブラックバック(Black Buck)で、「粗暴で女性を襲う黒人」という(かなり偏見が含まれる)スラングであり、なおかつシカ(deer)も「彼女を作ろうとして失敗する男」という意味のスラングだそうです。
父親のディーンがクリスに「シカにはうんざりしている、轢き殺してくれて有難い」と言ったのは暗に黒人に対する差別が含まれているのです。
これはアメリカ英語の知識がないとなかなか気づけない演出ですね。
シカは後半地下室のはく製として再登場します。
中身を抜かれて皮だけにされる、まさにこれから手術を受けて肉体から意識を抜かれるクリスを暗示しているのです。
ローガンやウォルターなど、手術を受けた黒人の意識を呼び覚ますスマホのフラッシュにも意味があります。
ご存じの方も多いかと思いますが、アメリカでは白人警察官が黒人を暴力で押さえつけ、窒息死させるという事件が相次ぎました。
エリック・ガーナー窒息死事件では、警察官の暴力をスマートフォンで撮影したことがきっかけで告発に至りました。
それ以降、スマートフォンでの撮影はそういった警察官の暴力への抑止力として機能するようになりました。
ゲット・アウトの中でフラッシュが黒人の意識を呼び覚ますのに使われるのはその為なのです。
余談ですが、この映画は当初別のエンディングで終わる予定でした。
そのエンディングとは最後クリスがローズに馬乗りになり首を絞めて殺害してしまいます。
そこにパトカーが到着し、警察は黒人男性が白人女性を襲ったと誤解してクリスを逮捕してしまいます。
その後場面が刑務所に切り替わりロッドが面会に訪れ、クリスを救うために事件のことを聴こうとしますが、クリスは「もういいんだ、奴らはもういない。俺が止めた。」と言って面会を切り上げ、収監所に戻っていくというラストです。
なかなか強烈なラストでこれも悪くないと思うのですが、前述の通り、この映画を撮影している最中、白人警察官が黒人に暴力をふるうという事件が相次いでいたという時代背景がありました。
映画より現実の方が残酷になっていく中、このラストではあまりに救いがないと判断し、エンディングを差し替えたというわけです。
パーティーのシーンで、集められた白人の人々はまるで物を見るような褒め方ではあるものの、黒人のすばらしさを認めています。
画商のジムも手術を受ける際に「憧れだ」と言っていました。
それとは逆にロッドが黒人警察官に助けを求めるシーンでは「どうせ白人女にいいように振られたんでしょ?」と差別とまではいかないものの、非常に黒人自身が黒人を低く見ているようなシーンが印象的でした。
BLM運動をはじめ、いま人種差別に関するニュースが日に日に多くなっている気がします。最近のアメリカではアジア系住民に対するヘイトクライムが相次いでいるそうです。
今一度、差別とは何なのか、考えてみるいいきっかけになる映画でした。
映画『ワンダーウーマン1984』(ネタバレあり)
※この記事はネタバレを含みます。
【観た媒体】映画館
【観たきっかけ】前作を見てファンになったので
【私的評価】★★★★☆
【あらすじ】
2017年に公開された映画「ワンダーウーマン」の続編。
アマゾン族のプリンセス、ダイアナは人間界に暮らし、博物館に研究員として勤務する傍ら、時にヒーローとして街の事故や犯罪を防ぐという生活を続けていた。
ある日、彼女が勤務する博物館にバーバラ・ミネルヴァという女性研究者がやってきた。
彼女はFBIに押収された密輸グループの怪しい石の鑑定をする為にやってきたという。
バーバラは地味で引っ込み思案な女性であったが、心優しい女性だった。
石は当初胡散臭いまがい物と思われたが、台座にラテン語で「なんでも願いを叶える」と書かれており、半信半疑で願い事をしたところ、
ダイアナは「死んだ恋人のスティーブを蘇らせる」、バーバラは「ダイアナのように強く美しくなる」という夢が叶えられてしまった。
しかし、夢の代償としてダイアナはヒーローとしての強さを、バーバラは優しい心を失ってしまう。
ちょうど同じ頃、石油会社の経営するマックス・ロードが博物館に寄附をしたいと現れた。
彼はメディアにも数多く出演し、成功者のような振る舞いをするが、実際には一向に石油を掘り当てられず、借金まみれの身であった。
実は願いを叶える石は彼が密輸業者を通じて取り寄せたものであり、石の力で自分の願いをかなえようとしていたのだ。
上手く博物館に入り込んだマックスはバーバラを懐柔し、石を手に入れることに成功した。
そして、「自分自身が石になりたい」という願いをかなえ、数多くの人の願いを叶える代わりにその人の大切な物を奪っていった。
マックスは共同経営者の株式をすべて奪い取ったり、石油王の衛兵を奪い取ったり、アメリカ大統領に世界最大規模の核兵器を与えたり、自らの願望を叶える為に暴走をしていった。
ダイアナはそれを止めようとするが、ヒーローとしての力を失っている為、太刀打ちできない。
また、すべて元通りになってせっかく手に入れた自分の力を失いたくないバーバラの妨害も受けてしまう。
ダイアナは世界を救うべく、蘇らせたスティーブとの別れを決意し、自分の願いを取り消してヒーローとしての力を取り戻す。
マックスは大統領から権限を奪い、軍の人工衛星を使って世界中のテレビやモニターなどの全ての映像機器にアクセスし、全世界の人々に触れて願いを叶えその見返りとして
自らの願望を自らが望むままに叶えようとしていった。
ある者は「〇〇人を追い出したい」、またある者は「祖国にミサイルを撃ち込みたい」と願い、世界は混乱を極めようとしていた。
さらに共闘関係になったバーバラにさらに強力な力を与えた。彼女はチーターのような怪物となった。
アマゾン族に伝わる金の鎧をまとって現れたダイアナはバーバラと戦い、辛勝する。
そして人工衛星を通じて世界中の人々の願いを叶え、暴走するマックスを説得しようとするが彼は聞く耳を持たない。
そこで全世界の人々に「このままでは世界は崩壊する、辛いのはあなただけじゃない」と語り掛け、願いを取り消すように求めると、多くの人がそれに応じていった。
マックスは核兵器が放たれようとしている街にさまよう愛息の映像を見て、正気を取り戻し、すべての願いを取り消すと宣言すると世界に平和が取り戻された。
【感想】
前作を見てファンになり、今作も楽しみにしていたのですが、コロナの影響で公開が延期され、またレビューサイトでも評判があまり良くなかったので見るかどうか迷ったのですが、シン・エヴァンゲリオンも公開が延期されてしまい、映画を見に行きたい思いを埋め合わせるために観に行きました。
しかし、結果的に観て良かったと思います。少なくともお金を払って映画館に足を運ぶだけの価値はあったと思いました。
一番の魅力はやはり主演のガル・ガドットです。
「強く美しい女性」にぴったりの素敵女優さんだと思いました。アクションシーンも迫力があり見ごたえ抜群でした。
それと今回の敵となるマックス・ロードですが、ドナルド・トランプ前大統領にそっくりなキャラクターだったのが面白かったです。
虚勢を張っているけど実は借金まみれというのも現在のトランプ氏の置かれている状況にそっくりだと思いました。
「偉大になるんだ!」というセリフが何度も使われていて、氏の「Make America Great Again」のキャッチコピーを連想しました。
また、マックス・ロードの会社に従業員を採用する時に「You're hired!(採用!)」と叫ぶのですが、これもトランプ氏がバラエティ番組に出てた時の決め台詞、「You're fired!(お前はクビだ!)」のオマージュなのかな?と思いました。
その他にも作中のアメリカ大統領に「世界最強の核兵器を持ちたい!」と言わせたり、
エジプトの石油王が「古代王朝を復活させて、移民を追い出したい!」と叫ぶと大きな壁が出現するなど、非常にトランプ批判の多い映画だなぁという印象を受けました。
(気にしすぎかもしれませんが…)
残念だった点もあります。
一番はダイアナの強さの波がわかりにくかったことです。
序盤に交通事故を防いだり、強盗を捕まえたり、街の治安を守るシーンがあるのですが、そこは王道のスーパーヒーローという感じでした。
しかし、昔生き別れた恋人のスティーブを復活させてダイアナはヒーローとしての力を失ったはずなのですが、それでもバーバラと互角に戦い、さらにエジプトでは戦車相手に見事なカーチェイスを繰り広げるのですが、どう見てもヒーローとしての強さを失ったようには見えませんでした。
その後スティーブと決別し、力を取り戻したはずなのですが、あまり変化は見られません。
最終決戦でアマゾネス族に代々伝わる金の鎧をまとって登場し、「おおー、これで大暴れするんだな」と思いきや、チーターと化したバーバラ相手に防戦一方で、金の鎧も無残に毟りとられてしまいました。あの戦いの時は一番弱く見えました。
その他にちょっと残念だったのはダイアナがエジプトのカーチェイスシーンや、スティーブと決別してマックスと戦うために走り出す時にスローモーションになるのですが、
その時の顔が真顔の緊張感に欠ける表情で「いかにも合成」という表情になってしまったのが残念でした。
今回のキーワードは「何かを得ると何かを失う」だったと思います。
リトルマーメイドのアリエルも脚を得るために魔女と契約して声を失いました。
しかし、前向きに捉えることも出来ると思います。
スティーブ・ジョブズの言葉に「何かを得るためには何かを失わなければならない」というのがあります。
リスクを取ってでも新しい何かを得る姿勢を持ちたいと思いました。
『火花』(又吉直樹)
【タイトル】火花
【作者】又吉直樹
【読んだきっかけ】芥川賞受賞作品なので一般教養として読もうと思った
【私的評価】★★★★☆
【あらすじ】
売れない若手芸人・徳永と、徳永が師匠と仰ぐ先輩芸人・神谷との交流を描いた作品
徳永は地方の営業で出会った神谷に天才的なものを感じ、惹かれ、営業後に訪れた居酒屋で弟子入りを懇願する。
そんな徳永に神谷は自身の伝記を書くよう徳永に依頼し、二人の一見奇妙な師弟関係が始まった。
徳永はなかなか売れない若手芸人、神谷は大衆に迎合することを嫌う破天荒な芸人だ。
徳永は早々にテレビ出演を勝ち取って売れっ子になる後輩芸人の出現に焦りを感じたり、お笑いライブで徐々に知名度を高めてテレビに出演したり、徐々にまた売れなくなって相方が子供をもうけたのを機に芸人を引退し、それに合わせて自身も引退するという、非常にリアルな芸人だ。引退前の最後のライブは中々感動的なライブとなった。
それに対して、神谷は破天荒な芸風が邪魔してなかなか売れない、大阪で芽が出ないので東京に移り住み、真樹という女性の家に転がり込んだり、ヒモのような暮らしを続けたり、ついには借金で首が回らなくなり、行方不明になる…という非常にステレオタイプな昭和の破天荒芸人のように見えた。
ついに神谷は自己破産し、事務所をクビになり、徳永を呼び出し「これでテレビ出れるかと思った」と豊胸手術を受けたことを明かし、徳永はそれを厳しく叱責した。
最後は徳永が神谷の誕生日に合わせて熱海への温泉旅行を企画し、神谷が温泉につかり、花火を見ながらネタを考えるところで終わる。
【感想】
とても読みやすかったです。
「芥川賞受賞作品」と聞くと難しく身構えてしまったのですが、決してあっさりした文章という意味ではなく、作者の書く文章がとてもきれいだったのですらすらと読むことが出来ました。
作者の又吉直樹さんも芸人でいらっしゃるので、お笑いの世界の描き方がとてもリアルでした。
主人公徳永はサッカーで高校選抜に選ばれていたという設定がありましたが、又吉さんも高校時代にサッカー部に所属し、インターハイに出場していたり、
徳永のお笑いコンビ名が「スパークス(火花)」であるのに対し、又吉さんが最初に組んだお笑いコンビの名前が「線香花火」だったり、
主人公徳永は少なからず又吉さん自身が重ねられてできたキャラクターなのかもしれません。
そうすると神谷にもモデルがいるんじゃないかという気になりましたが、あくまで小説なので余計な詮索はしないようにしときました。
ストーリーで良かったのは後半部分のスパークスの解散ライブからラストにかけてです。
スパークスは「真逆のことを言う」という漫才をするのですが、
「僕達、スパークスは今日が漫才をする最後ではありません。これからも、毎日皆さんとお会い出来ると思うと嬉しいです。僕は、この十年を糧に生きません。だから、どうか皆様も適当に死ね!」と中々感動的な漫才を行い、ジーンと来ました。
しかし、「まぁ才能やチャンスに恵まれなかった人も頑張って続けたけど結局生き残れなくて引退していくのってちょっと有りがちかなぁ~」なんてことも思いました。
だけどその後、借金が膨らんで行方を眩ませていた神谷が再登場するのです。
神谷の借金が膨らんでる様子は物語の中盤ぐらいから時限爆弾のようにいつか爆発するだろうな、とちょくちょく差し込まれていたので、神谷の再登場でついに借金の爆弾が爆発するのか!?と思いきや、神谷自身は豊胸手術をして登場するというのが非常にフリのきいたボケのようで面白かったです。
その他にも色々と印象に残る問題提起や文章が多かったです。
例えば、「漫才とはどうあるべきか?」という話も出てきました。
2020年末のM-1で優勝したマヂカルラブリーのネタを「これは漫才じゃない!」と批判する声が一部上がっていたのでとてもタイムリーで面白い箇所だったと思います。
「漫才師とはこうあるべきやと語る者は永遠に漫才師にはなられへん。」という意見はとても興味深いものでした。
他にも「生きている限りバッドエンドはない」という何とも生きづらい現代を生きる者にとってはこれ以上ないというほどの勇気づけられる文章もありました。
またふとした時に読み直したいと思います。
『予知夢』(東野圭吾)
【タイトル】予知夢
【作者】東野圭吾
【読んだきっかけ】推理小説を読みたかったから。ドラマ版のファンだから。
【私的評価】★★★★☆
【あらすじ】
「探偵ガリレオ」シリーズのひとつ。
天才物理学者湯川と、その大学時代の同期で警察官の草薙のコンビが難事件に挑む。
「未来の恋人」として幼い頃から空想していた名前と同姓同名の女性と出会ってしまった男が繰り広げるミステリー、『夢想る』
その時殺されていたはずの女性の姿が同時刻に全く場所で目撃されていた謎に迫る、『霊視る』
夫が行方不明になった妻から相談を受け捜査をするとポルターガイスト現象が起こる謎の家に行き着き、その謎を解く『騒霊ぐ』
町工場の社長がホテルの一室で殺されているのが発見され、犯人を探し出す、『絞殺る』
目の前で不倫相手が自殺するという事件が起きたが、事件には不可解なことが残り真実に迫る『予知る』
の全5章からなる短編集
【感想】
とても面白かったです。
ドラマ版の『ガリレオ』のファンでもあっていくつか既に知っていたトリックもあったのですが楽しめました。
大学で電気工学を学んでいた作者の知識がいかんなく発揮されています。
短編で読みやすいのも良かったです。気が付くと「もう1章、もう1章…」と
次のエピソードを読みたくなってしまって読むのが遅い私もすぐに読み終わりました。
ガリレオシリーズは他にも多く出版されているということで、ほかの作品も読んでみたいと思いました。
『南米「裏」旅行』(平間康人)
【タイトル】南米「裏」旅行
【著者】平間康人
【読んだきっかけ】コロナ禍で旅行出来ないので未体験のスリルを求めて
【私的評価】★★★★☆
【あらすじ】
これまでもバックパッカーとして世界を飛び回っていた著者の南米初上陸の様子を描いた旅行記
ブラジルから始まり、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、ボリビア、コロンビア、エクアドルの定番の観光地から少し危ないスポットまで網羅した興味深い一冊。
【感想】
ブラジル編が全体の約半分を占めるのですが、正直に申し上げるとブラジル編はあまり面白くなかったです。
「裏」旅行という割にはスラム街を少し訪れただけ、という内容が続いていたので退屈で読むのに時間がかかってしまいましたが、
後半のブラジル以外の国に進むにつれてディープな内容が増えてきて面白かったです。
印象に残った一言で「旅で訪れた先々で出会いと別れを繰り返しているので、その場の情に流されにくくなった」という趣旨の文言がありました。
なるほど、それほど旅というのは人間を成長させてくれるのだなと思いました。
私はどちらかというとインドアなので見習わなければならないと思いました。
それとやはり南米は治安があまりよくないようで「日本だったらこんなこと滅多にないだろうなぁ~…」という事件もたくさん書かれてました。
今ある平和に改めて感謝ですね。
『カーネル・サンダースの教え 人生は何度でも勝負できる!』(中野明)
【タイトル】カーネル・サンダースの教え 人生は何度でも勝負できる!
【著者】中野明
【読んだきっかけ】偉人の伝記を読みたかったから
【私的評価】★★★★☆
【あらすじ】
世界中で知られる一大外食チェーン、ケンタッキーフライドチキン(以下、KFC)の創業者、カーネル・サンダース(本名ハーランド・デビッド・サンダース)の生涯について、カーネルに関するいくつもの書籍をもとに書かれた一冊
白ヒゲに白いスーツにステッキというお馴染みの出で立ちからは想像がつかないほどの波乱万丈で破天荒な生涯を知れる一冊
【感想】
先日読んだ『一生折れない自信のつくり方』(青木仁志)に
「成功者の伝記を読んでみよう」と書かれていたのでこの本を手に取ってみました。
カーネル・サンダース(以下、カーネル)が実は波乱万丈の人生を送っているということは何となく知っていたのですが、
改めて伝記を読んでみると10歳で働きだして職を転々とし、上手く行ったセールス業で破産を経験し、飲食業で成功してもその後65歳で無一文になったり、そこからあのKFCを創業したり、想像以上に波乱万丈で驚きました。
読んでみて素直に思ったのは成功者の方々は行動力があるな、と思いました。
(↑当たり前のことかもしれませんが…)
中でも飲食店を経営してる時代に、店を焼失した際のエピソードには驚かされました。
カーネルはKFCの前に「サンダース・コート&カフェ」という飲食店を経営していたのですが、業績が好調なので2号店を出そうということになりました。
そこでカーネルは、1号店の運営を長女の亭主に任せて、300km離れた場所に2号店を設け、自分は2号店の運営に注力することにしました。
2号店を開店して経営も順調だったのですが程なくして、1号店が火事に見舞われます。
それを電話を知ったカーネルは火事を周囲に広げさせないよう店員に的確に指示を出し、その後すぐさま車に飛び乗り、自分も300km離れた1号店に向かいました。
普通ならパニックになっても不思議でない状況ですが、カーネルは車中ずっと
「どうやって店を再建をさせるか」を考えていました。
資金繰りはどうしようか、という根本的な問題から、事業形態を変えた方がいいか、帰るとすればどういう形がいいか、という具体的な問題まで考えていました。
一日中車を運転し続け、翌日午前中に焼失した1号店に着いた時には再建計画をほぼ完成していたというのだから驚きました。
それから「四つのテスト」という話も印象的でした。
セールス業を始めたカーネルは自分の仕事に対し、チェックリストを作りました。
・嘘偽りはないか?
・関与するすべての人に公正か?
・信用と信頼を築けるか?
・関与するすべての人に利益があるか?
これが「四つのテスト」です。
このチェックリストすべて当てはまるような商品や事業であれば、自信を持って売り込むことができる、ということです。
この四つのテストはカーネルが事業を行う上で生涯大切にしていたそうです。
私が尊敬する経営者に京セラの稲盛和夫会長がいるのですが、稲盛会長も四つのテストと同じようなことをおっしゃっていました。
「動機善なりや、私心なかりしか」
動機は世の中を良くしようという善の心から出たものか、自分だけ私腹を肥やそうという私心はないか、という言葉です。
カーネルの四つのテストにそっくりだと思いました。
やはり一流の経営者には共通する精神なのかもしれません。
この本が出版されたのは2012年の頃でした。
その頃の日本の経済状況はリーマンショックから立ち直りかけていた頃に東日本大震災が起こり、非常に暗いものでした。当時のことをよく覚えている方も多いと思います。
この本の終わりに著者の中野明氏のこんな言葉が書かれていてとても印象に残りました。
「最善を尽くしても成功を手に出来るとは限りません。
しかし、何もせずに終わるこの先10年と、とにかく悪戦苦闘したこの先10年とでは結果はおのずと違うものになるはずです。」
2020年9月現在、日本どころか世界中で大変な事態が起きています。
しかし、そんな中でも自分にできることについて最善を尽くしたいと思いました。